Sunday, June 29

彼らはやってくるのか。

6月、自衛隊のアフガン派遣を巡って官邸主導の調査団が急遽カブールに派遣された。
共同通信が8月にも法案改正して自衛隊派遣か、という飛ばし記事を発信している。
アフガンに自衛隊は派遣されるのか。

>自衛隊派遣を巡る議論の経緯

自衛隊派遣を巡っての議論はきょうびが初めてのことではない。

アフガンに自衛隊を派遣する構想は、2002年の復興支援当初からあり、NATOからも再三の要請があったものだが、日本はDDR(民生支援による武装解除・除隊兵士訓練)を担当することで住み分けてきた。DDRは2006年に終了し、2007年からはDIAG(警察改革)支援に移行している。(参考:駒野欽一「私のアフガニスタン―駐アフガン日本大使の復興支援奮闘記」)

2006年前後ぐらいから、アフガンの治安は悪化の一途をたどっている。
実際、小生がアフガンに派遣された2006年4月以降、カブール市内での騒乱や市内におけるテロ活動の活発化、プロジェクトオフィス周辺での自爆テロ、ホテルへの複合攻撃、大統領暗殺未遂と言った事件が起きており、徒歩での出歩き禁止、市中での買い物禁止、レストランでの外食禁止に自宅待機や一時避難準備を行ったこともあった。

ISAFの犠牲者数も減ることなく、想像以上の人的被害を受けて、ISAF(国際治安支援部隊)参加国の一部には、派兵取り止めの検討を始める国が少なくなくなり、ISAFを統括するNATOを率いるアメリカ軍も焦りの状況を隠せなくなってきた。長期駐留による装備品の劣化や不十分な武装が取り上げられたのも2006年後半。また2007年春には、「冬季に力を蓄えたタリバンの一斉攻撃(Spring Attack)が行われる」という喧伝を積極的に行い、各国の駐留継続を検討させるようなこともあった。

カナダやドイツは自国兵の犠牲に特に敏感で、追加派兵の代わりに戦闘機の供与や追加装備の拡充などでISAFへのコミットメント継続をアピールするなど、アフガンへの軍派遣は、コスト・成果に見合わないものとして、認識されつつあるように見られる。

2007年1月当時の政権において、安倍首相はNATO本部で日本首脳としての初めての演説を行い、NATOとの安保協力の連携強化を表明した。これは現行法を無視した暴走気味の政治アピールだったが、NATOのISAFへの自衛隊派遣の期待は大きくなり、実現性がにわかに大きくなったものの、現行法での自衛隊派遣は難しいとの判断で、結局、PRT(地方復興支援部隊)への資金拠出(20億円)で収まった。

2007年8月になって、対テロ特措法の延長(インド洋上の海自輸送艦給油事業)に絡み、アフガンへの自衛隊派遣の議論が再度活発になる。実は2007年7月には民主党はアフガンへの現地調査団派遣を準備し、特措法による洋上給油以外の形でのアフガンでの民生支援強化の具体的検討を進めようとして、派遣者まで具体的に伝わってきたものの、結局、現地の治安悪化を理由に取りやめになった経緯があった。

ちょうど7月に行われた参議院選挙で与野党の勢力が逆転したが、この政治的背景もあったことは想像に固くない。

ただ、民主党の主張の奇妙な点は、政府協力(国連機関経由拠出金や無償資金協力、JICAによる技術協力支援)の成果を取り上げることなく、日本NGOを通じた支援強化をすべし、と主張しているところにある。2007年9月には、7月に起きた韓国人誘拐事件等を受けて、日本外務省の海外渡航情報においてアフガン全土が退避勧告地域に引き上げとなり、日本NGOもほとんどがアフガンを撤退した(正確には、日本政府から資金援助を受けているNGOは日本政府の強い要請により撤退・第3国からの遠隔操作に援助方針を変更した)状況だったのにもかかわらずだ。するべきなのはJICAを通じた技術協力の強化であっても良かったはずなのですが、JICAによる協力活動強化が民主党の方針に明確に出てきたことはない。

2007年11月には民主党の小沢代表がISAFへの陸自派遣について雑誌「世界」に論文を投稿したことで、一気に議論がヒートアップした。これには与党がそろって「自衛隊のISAF派遣は憲法違反」と反対し、1月とは正反対の状況になった。石破防衛相も小沢氏の提案に対し、ISAFへの自衛隊派遣は憲法違反だと述べている。このときの民主党内は足並みが乱れており、小沢代表の勝手な主張であると党内からの牽制も見られた。

12月には緒方JICA理事長がアフガンを訪問し、カルザイ大統領をはじめとした政府要人とも会談を行っている。訪問結果は福田政権に報告され、JICAの活動に対する評価が、福田首相の年頭挨拶にも盛り込まれた。ここで注目すべきは、与党はJICA等による民生支援の実績を認識した、というところにある。

そしてここにきて、再度、福田政権による自衛隊派遣議論が復活した。

テロ特措法は、安倍政権の交代後も政争の具になり、参議院の均衡逆転も背景に、福田政権の舵取りを難しくさせている頭の痛い問題と言える。結局特措法の期限切れと再採択により、洋上給油は復活したが、2009年1月に再度期限切れとなるため、次の一手のイニシアティブを何とか取りたい、小沢民主党を取り込みたい、という思いが官邸サイドにあるのかもしれない。

高村外務大臣が、5月にアフガンを電撃訪問しているが、現在無償資金協力によって実施中の新カブール国際空港ターミナルの建設現場も訪れ、アフガンで活躍する民生部門の活動について好意的な評価が述べられている。

>自衛隊派遣は規定路線か?

自衛隊のアフガン派遣は、時期によって”賛成””反対”が政党間で入れ替わるというな状況であるが、「自衛隊を海外に派遣したい」というベクトル自体は変化ないように思う。

舞台裏では自衛隊派遣ありきで動いている向きがあるのではないか、と勘ぐっている。
防衛庁から防衛省への省再編成の際、「国際貢献」が本来業務として明文化されたことで、実績作りを急いでいるようにも感じられ、そのような印象は強い。なおアフガンへの派遣を検討しているうちに、国連ネパール支援団やスーダンへの自衛隊員派遣が決定、実績が積み重なられつつある。

今回の官邸による調査団派遣はあっという間に決定し、実施されたとみられるが、これをG8に向けた単なるパフォーマンスと取るか、実際の派遣に向けた一歩と見るか、判断がつきかねるところ。

イラクにおける空自によるC-130輸送機による支援実績を引き合いに、アフガンでも同様の支援展開を意識したのか、政府調査団はご丁寧にもアフガン北部に位置するタジキスタン国の軍事基地も訪問したという。

ただし、イラクにおける空自の支援活動については、名古屋高裁で最近出された判決で、「航空自衛隊がイラクで行っている米軍兵士や物資を空輸することは憲法違反」と判断された。これにより、現行法でのアフガンへの自衛隊派遣は非常に厳しくなったといえる。

>自衛隊派遣に伴う、在アフガン日本人へのリスク

自衛隊の派遣に伴う日本人関係者へのリスク(脅威)については、これまでの反政府勢力による事件の経緯を見ても、相当な懸念が想定される。
タリバンによる誘拐事件の第一の要求事項は、1.身代金の要求、2.収容された仲間の釈放、3.アフガン駐留外国軍の撤退である。
昨年は韓国政府が、ワルダックでの自国民の誘拐事件を受けて駐留軍の撤退に応じている。韓国軍自体は、主として後方支援に特化していたにもかかわらずだ。アフガン政府及びアメリカ政府は、テロ組織との交渉には一切応じない、という立場をこれまで鮮明にしてきているが、実際にはどうなのか。

アフガンにおける自爆テロのターゲットは、アフガン国内駐留の外国軍及びアフガン国軍、アフガン警察である。最近は、地元警察が自爆テロで被害に遭っても大きく報道されることが少なく、報道効果の高い外国軍をターゲットとする事件も増える傾向にある。実際に、6月における英国軍兵士の犠牲者数は過去最大に及んでいる。

人から人への技術協力を標榜するJICA型の日本支援は、現地の人とともに技術指導を行い、一定の評価を得ているが、こうした活動手法は、より一層深刻なテロの脅威・誘拐の脅威リスクにさらされる。
JICAは日本政府の意思によるアフガン支援の実施機関の立場にあり、政府に対して正面からモノを言う立場にはないものの、そもそも「退避勧告地域」(外務省渡航情報で赤く塗られた地域・国)での活動については、制度上定められたものではなく、なし崩し的に退避勧告地域での活動を継続しているに過ぎず、十分な制度保障を伴わないまま、リスクを犯し続けてきている。

アフガンメディアは、ISAFの動向に非常に敏感であり、常に優先報道の対象にある。自衛隊派遣についても、国際ニュース配信機関による配信がされるたびに、転電されて当地の新聞でも大きく取り上げられている。単に「派遣を検討している」といった動静だけでも、ニュースとなっており、そのような報道が国内でなされることで、日本はアフガンに軍を派遣しようとしている、という意図が伝わり、現地に滞在している日本人のリスクを高めている。
(日本国内における自衛隊の定義の議論(いわゆる「軍」としての)は当地ではまったく意味が無い。ISAFも自衛隊も、ここでは正規の「軍」である。)
昨今、タリバンは非常に賢く、世界情勢をうまく利用して効果的な攻撃を仕掛ける傾向にあり、自衛隊関連の派遣報道が当初は起こり得なかったリスクを生むのではないかと、懸念している。

アフガニスタンで長年に亘って活動してきた援助関係者には、ペシャワール会の中村哲さんが有名である。
軍の派遣無しに、各NGOや団体、政府援助機関が地道な人的貢献を継続してきたことが、アフガン国民に受け入れられ評価されてきている。
だからこそ、これまで邦人援助関係者の事件・事故は避けることができてきた。

紛争国における幅広い支援活動強化には、軍と民生部門の連携強化が問われており、欧米ではCMIC(軍民協力)といったアプローチの検討が進んでいる。
しかしながら、今回の自衛隊の派遣は、順序が逆。自衛隊の派遣の目処が終了した段階で、民生部門が拡充されるべきであり、民生部門が浸透している中での軍隊派遣は、民生部門を無意味なリスクにさらけだすことでしかない。

>必要な人的貢献・国際協調

人的貢献拡大のために派遣される自衛隊が、地道な活動を続けてきた援助関係者をリスクにさらされることは皮肉でしかない。
はっきりいって、自衛隊の派遣は有害無益であり、これまでの日本のアフガン支援に対する高い評価を貶めるものでしかない。
特に昨今反政府勢力の活動が激しいカンダハルにおいては、日本が復興支援当初に道路整備や市内インフラの整備を行い、
軍を派遣せずとも優れた事業を展開したことで、地元民の評価が高かった。

アフガンに対する真の人的貢献は、自衛隊の犠牲を出すことでも、邦人関係者の犠牲を出すことでもない。
有益な人的貢献のアプローチについて、国際協調(貢献)の面から自衛隊の派遣が必要とされているが、日本国内の議論は尽くされていない。

憲法9条を論ずるつもりはないが、アフガンの復興と安定について、日本が世界に存在感を示せるのは、自衛隊による軍事的アプローチではなく、
能力開発や人材育成といった民生面において最大限の貢献をすることではないかと思う。軍の存在が人々の心を穏やかにすることはない。
地道に種を植え、花を咲かせていく活動によってこそ、豊かなアフガンを取り戻せるのではないか、強く思う。

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