まだ午前5時だ。
固いベットに枕がなかったせいか、頭の後ろがひどく重い感じがする。
気の早い迎えの車の運転手は、わざわざ部屋のドアをノックしてきて、出発の時間だと言う。いそいそと身支度を整える。
昨夜通りを埋めていたバザールも、ひとけがなく物売りの屋台もきれいに片付けられている。
日中はリキシャや大小さまざまなバスやタクシーが入り乱れ、クラクションや割り込みで忙しい道路も、まだ空いていた。
13番線まであるニューデリー駅。
夜も明けないうちから駅前広場やプラットホームは人でごった返している。
思ったほどの喧騒ではないが、行き交う人の波がそれぞれの目的の地へと足をさらっていく。
シャタブディ・エクスプレスは6:00を回った頃、1番ホームに滑り込んできた。
6:15、定刻通りに出発する。重い鉄塊のような車両がゴトゴトと動き出す。
目的地のアグラまではノンストップだ。時速120km近い速さで快適に進んでいく。
アグラ・カント駅ホームで待っていると言っていた迎えの運転手が見つからず、仕方なく客引きの声にでもついていこうと改札を出たところ、自分の名前が書かれたボードを持ったRaiさんに出会った。待ち合わせ場所が異なっていたらしい。
「ぜったいに物売りに止められてはいけない。声を掛けてくる人はみんな怪しい人だ。今日は僕があなたの運転手だから、僕以外の人についていってはいけない。みんなあなたのお金を狙っている。」
のっけからRaiさんから妙な忠告を受けつつ、DAEWOOの軽車両の助手席に乗りこみ、タージマハルに向かった。
チケット売り場と併設されたセキュリティーチェックの列を抜けて赤い石でできた門をくぐると敷地内に入れる。もう一つの赤い石の門をくぐると、あの左右対称の優美な姿をした建物が見えてきた。
大理石の白が、青い空に背景に鮮やかなコントラストを描いている。
噴水を配した幾何学模様の庭園が広がり、建物はすべて左右対照。
重厚な質感の大理石の建物に、壁面を飾る精巧な象嵌細工。
長い年月と歴史を経てなおそびえる続ける威風堂々としたタージ・マハルの、その頑強さ、完璧な美に圧倒されそうになる。
タージ・マハルはムガル帝国第5代皇帝シャー・ジャハーンが、先に他界した最愛の妃ムスターズ・マハルのために作った廟。タージ・マハルの裏にはヤムナー川が流れており、遠くアグラ城が見える。対岸にはのどかな草原が広がり、水牛が群れをなしていた。ムガル建築の最高傑作は、この建物が出来た当時から変わっていないだろう風景を残しているように思えた。
シメトリーの美しさに言葉がでない。
感動を言葉にできないから、その分写真にとどめようと思って黙々とシャッターを切り続けたが、途中で写真でも表現しきれない限界に気づき、庭園に腰をおろしてその姿にしばらく見惚れることにした。
肩を寄せ合うカップルがいた。女性の方は泣いているようだった。
視線の先にあったはずのタージ・マハルを眺めながら、二人はどんな言葉を交わしていたのか。
昼食はRaiさんおススメと言うインド料理屋で食べることに。ほとんど客がいない。値段が異常に高い。一人用のミールで500ルピー。完全に嵌められたと思いつつ、料理を待つと、その量は値段に正直で、3人前ぐらいあった。食べきれない・・・・。
噂がすべて現実になる点で、インド旅行は面白い国だと思う。ある意味で予想を裏切らない。
友人に聞いていた噂やガイドブックに書いてあった出来事が目の前で実現していく。
友人に聞いていた噂やガイドブックに書いてあった出来事が目の前で実現していく。
わずらわしい客引きや移動の際の値段交渉が面倒だと、前もってチャーターしたはずのドライバーでさえ、知り合いの店に連れ回そうとする。ショールだ、絨毯だ、貴金属だ、工芸品だ、とアフガンに流れてくるインド製品とさほど変わらないので、ますます興味は湧かなかったものの、次々と繰り出されるRaiさんの仕込みに愉快になり、とことんついていってやることにした。
いい加減自分の買う気がなさに諦めたのか、アグラの市街を離れ郊外のファティプールシクリに向かった。ファティプールシクリまでは結構な距離があって、往路復路でたわいもない話に花を咲かせていた。彼曰く、僕の財布は異常に固いのはなぜかと聞いてきたが、単にケチなんですよ。ここまでくるとお互い腹のうちを探らなくても良くなってきた。
20時発の帰りの列車にはまだ時間があって、Raiさんは車を止めて道端にあった屋台でチャイをごちそうしてくれた。甘くて香りの強い飲み物だった。自分が旨そうに飲んでいるのをみて、もう一杯ごちそうしてくれた。外国人珍しさに寄ってきた少年と時間をつぶしていると、ちょっと待ってろと言って、Raiさんはどこかに行ってしまった。まさか置いていかれたのではあるまいな、と疑心暗鬼になりかけたが、TajMahalと書かれたパッケージの紅茶を一つ持ってきた。僕へのお土産ということらしい。
インド人も複雑・・。こういうことをされてしまうと、嫌いにはなれない。訪問先のしつこい勧誘や物売りとの気の抜けない心理戦が展開されたような旅行にも感じたが、素直に受けとり直してみれば、相手も生活があってのことだから、押し付けがましい営業も、物売りもみんなみんな生きるための必然なのかも知れない。人があふれかえっているこの国で、もの静かに生きようとしても、そんな生き方ができるのは一部の裕福な人に限られるのではないかと。
アグラ・カント駅での待ち中、絵葉書を書いていると、立て続けに停電が起きた。インドとは言え、停電になることが何だか新鮮な感じを受ける。基本インフラは意外としっかりしていると思ったからだ。(デリー市内には、日本の資金協力で作られた地下鉄も走っている。)
デリーへの帰路は、ある日本人の青年と一緒になった。
彼曰く、アグラで宝石ビジネスを紹介されたらしい。ここで買った宝石を日本の指定のお店に持っていけば高く買い取ってくれるのだと。暑さで思考能力が低下し、相手の親切で丁寧な対応振りにクレジットカードを出してしまった。分かっているなら、断ればいいのに、断れなかったらしい。幸いにもカードが決裁できなくて、結局ビジネスは完了できなかったということだが、どこまでも期待を裏切らないネタ満載の国だと思った。
色んな感情や思いが交錯して疲れたためか、ホテルに帰り着いた途端に眠りに落ちた。
毎日汗だくになって歩き回って疲れた果てたが、「これぞインド!」という場面に一杯出くわし、けれどお腹を壊すことなく、熱いインドを体感してきた旅行だった。
好き嫌いがはっきり分かれるというインドだが、また折り見て違う都市を回ってみたいと思う。
(インド旅行:デリー・アグラ、9/8-11)
3 comments:
すげー。イベント盛りだくさんだねぇ。
ちなみに、僕のインド知識の80%は、「ジョジョの奇妙な冒険」第3部で、できてます。(笑)
ニューデリー駅って、13番線?!
想像もつかない。。。
まるで映画を見ているような気分の日記、
お陰様で楽しませていただきました!
ちょっと待ってて、、、と言ってお茶をお土産に持たせてくれるところ。微笑ましい。
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