大学時代の友人で、国内線の飛行機でたまたま乗り合わせた隣の席の人と結婚したというエピソードがあるが、きっかけは自分が持ち合わせた落雁だったと言う。
「お一ついかがですか」って。
飛行機に乗るときは、大抵隣の人が居ないと、気分的に楽である。
昼間に到着する便を利用するときは、空からの風景を撮りたくて窓側に。
夜間に到着する便を利用するときは、トイレに邪魔されたくないので、やはり窓側に。
隣に人がいなくて、横になることができるシートを、「Leg Stretch Sheet」と言う。
少々行儀は悪いが、やはり横になって寝られると睡眠の質が違う。
たまにビジネスシートに乗る機会があっても、この歳でビジネスに乗ると周りの人に気後れして、逆に落ち着かない。隣になった人に必ず何かと話題を振られるのだが、仕事の話になると説明に困るし。
隣にどんな人が座るのか、いないのか、というのはいつもながら無駄に期待と緊張するものである。
今年5回目となったイスラマ-バンコク間のフライト。
こんなことがあった。
イスラマの空港で搭乗待ちをしていると、とある親子連れと遭遇した。
写真の彼はカブール生まれのH君、12歳。
3人兄弟の長男で、次男、三男がお兄さんの後ろから僕のほうを伺っている。
最近覚え始めたダリ語で声をかけてみると、英語で返してきた。
今日のために英語を勉強していたという。
これからバンコクを経由して、オーストラリアのバースに行くという。
そこでお父さんが待っている。
お母さんは29歳。16歳で結婚したのか、ふと自分と比較して想像する。
お父さんは職を求めて2年前にオーストラリアに渡った。
いまビルの清掃を仕事としている。
H君はある袋を下げていた。中には写真つきの書類が入っている。
袋には白地に紺青色で「IMO」と書いてある。書類は移住許可書であった。
そう、彼らはオーストラリアに移住するのである。
IMO(=International Migration Organization)の支援で移住する家族に遭遇したのはこれが初めてではないが、今まさにアフガンを離れ移住しようとする一つの家族を前にして、しばし考えるものがあった。
他にも2家族くらいいたが、表情に緊張の様子が読み取れた。
ダリ語を話せる自分に好奇の眼差しのH君に答えるように、自分がカブールで働いていることを話すと、彼ら兄弟の表情がパッと明るくなった。なんだかすぐに友だちのようになった。カバンを探って、飴玉を取り出す。H君に渡す。「もらっていいの?」と聞き返してくる。礼儀のあるしっかりした子だと思う。彼なら大丈夫だろうと勝手にこれからの生活を想像する。友人には申し訳ないが、投函し切れずに手許に残していた絵葉書を彼に差し出す。いつかアフガンを思い出す機会になれば祈りつつ。
搭乗の時間を知らせるアナウンスが響く。
H君と弟はお母さんを他所に、僕についてきた。
お母さんの言うことを聞かなくては駄目だよ、と促しながら、いつの間にか家族5人となって一緒に飛行機に向かう。
大きな機体に嬉しくなったH君は、勢いよく先にタラップを上っていった。入り口まで着いて、お母さんがついて来ていないことに気付き、逆流して降りてくる。やはりまだ子どもだ。
自分でも驚いたことに、機内では一緒の席の並びであった。
真ん中4列シートに僕とH君、3男、お母さん、通路を挟んで次男だった。
機内では母校での講演の資料を仕上げる予定であったが、それどころではなくなって、シートベルトのつけ方からヘッドホンのセット、ジュースに機内食のお手伝いと、にわかに家族旅行。まぁなんとも楽しかった。
日本の自動車が好きだというH君、オーストラリアでは学校に通えるとのこと。
アフガンでの生活ができなくなったことが残念だと、言う。見かけ以上にませた子だなぁと思いながら、それでもいつか帰りたいと言っていた。
いつの日か安心して暮らせる日がくれば。早く実現させてあげたいと、歯がゆく思う。
深夜11時過ぎのフライト、僕もH君も気分が高揚しているのか、なかなか寝付けず、隣では3男がお母さんに対してぐずっている。無理もない。
アフガン人に対する諸外国の出入国検査は、いかなる理由であっても厳しい。
機内でもショールを頭に被せたままのお母さんの表情から、疲労が垣間見えた。
H君と日本の車やいろいろと話をしているうちに、いつの間にか2人とも寝入っていた。 隣を見ると、狭い座席に折り重なるようにH君と3男、お母さんが寝ている。
飛行機は予定通りバンコク国際空港に到着した。
乗り換え場所まで送って行こうかなと思ったが、ゲートでIMOの職員が待っていて、急かされるように彼らは去っていった。H君も、寝起きですっかり僕のことを忘れたのか、振り返ることなく行ってしまった。次の乗り換えまで16時間あるというのに。
「ホダフェス(ダリ語で「さようなら」=神のご加護を)」と言えなかったのがちょっとした心残りだった。
「お兄ちゃんなんだから、お母さんを支えていかなくては駄目だよ」と言った約束、
ちゃんと守っているかなぁ。
今ごろ彼はお父さんの腕の中でどんな話をしているのだろうか。
Saturday, December 16
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